時間術大全 ジェイク・ナップ ジョン・ゼラツキー[書評]

書評

この本を読み始めてすぐに、頭を「ガツーーーンッ!」と大きなハンマーで殴られてたような感覚に襲われた。

そこにはこう書いてあった。

「意志力」は脱出口にならない。
「生産性向上」も解決策にならない。

ちょっと待ってくれ。まさしく今の俺じゃないか・・・

そう思ったのは言うまでもない。コレまでたくさんのビジネス書や知的生産などの自己啓発書などを読んできた。それこそ、心理学の本では「意志力」について学び、「瞑想の偉大さ」にも気づいたし、どんな仕事も人より早くこなせるように、動作1つ1つからムダを取り除き、システム化する努力をしてきた。

しかし、この本に書いてある通り、そこから時間が生まれたことは一度もなかった。効率を上げて生み出した時間は、また別の何かに「奪われていく」だけだった。

それに読み始めで気づいた瞬間、おそらくハンマーで殴られた頭からは、血ではなく、今まで見て見ぬふりを続けてきた、あの忌まわしいドロドロとした真っ黒な膿が一気に流れ出ていたのだと思う。

そこから、この本を貪るように読んでは実践し、読んでは実践し、と繰り返しながら1週間ほど経った。

ここで得た「気づきたち」は、本当に偉大な効果を発揮した。

まずは何より「満足感」だろう。

いままでたくさんのタスクをこなしてきた。それこそTodoリストには、毎日、目も当てられないほどにタスクが立ち並び、それを効率良くこなしていく自分に酔って仕事をしていた。しかし、終わってみれば、なんのことはない「虚無感」が待っていて、その一瞬の虚無感の後にやってくるのは「明日」という「たくさんのタスク」だった。

しかし、本書で紹介される「ハイライト」という概念を実践に移すことで、今までは考えられないような「満足感」を得られるようになった。

ハイライトとは、タスクだと機械的だし、長期目標だと遠すぎる。その中間の概念だ。そのハイライトを1日のはじめに「緊急度」「満足度」「喜び」の3つの基準によって決めるのだ。

ただそれだけなのだが、ものすごい充実感を得られるようになった。

やり始めでこれなのだから、今後このやり方にもっと慣れたときには、どんな感覚が待っているのか。楽しみで仕方がない。

この喜びをまずは伝えたくて筆を取った次第である。

こんな面白い本は滅多とない。プロローグだけでも十分に値段分の価値はあるし、ハイライトの章を読めば、3倍の値段であっても払うだろう。全体を通して読めるなら10倍でも厭わない。

それほどに、この本は良いのだ。

さて、私がこの1週間ばかりで実践したのは、それだけではない。

本書で紹介される「気の散らないiPhone」というノウハウも実践した。正直、欲張りな自分にとっては、これはかなり骨の折れる作業だったし、もちろん、今もその試行錯誤中だ。

ただ、とりあえずではあるが、わたしのiPhoneのホーム画面からアプリは1つもなくなった。

この作業は、とても骨が折れた。何年も愛用してきたEvernoteを消したり、毎日のルーティンに組み込まれている「日記」を書くのに使っていたPostEverを消すのも、とても勇気がいった。Facebookに至っては、人の繋がりを切るような感覚がして、すごく胸が痛かった。

しかし、やってのけた。

そうすると、どうだろう。想像していたような苦痛は一つも訪れなかった。必要なときは、またアプリを再インストールすればいいし、FacebookはMacBookで定期的に確認すれば済む。

そんなとても当たり前のことも、バイアスがかかっていたせいで、行動できずにいたのだ。そのバイアスとは、効率化や意志力というある種に人間にとっては、ものすごい魔力のある言葉である。

そんなバイアスも今ではキレイさっぱりなくなり、頭のモヤがなくなったようだ。

さらに、本書のノウハウで実践していきたいことはいくつかある。

まずはデフォルトを書き換えるという考え方を身につけることだ。デフォルト(初期設定)を意識しなければ、わたしたちは他人の作ったものに「迎合」して生きるハメになる。

iPhoneの話が出たので、iPhoneで例えるとわかりやすいだろう。通知が鳴りやまず、朝に鳴るとゾッとする電話の着信音、わたしはココよ!と叫び続けるバッジたち、キーボードの種類や入力仕方まで。

デフォルトでは、誰かが作った「使いやすさの理想像」に迎合するだけだ。

しかし、そのデフォルトを書き換えることで「自分が心地よいと感じる状態」をデフォルト(当たり前)にして、毎日を送ることができる。

誰だって、自分の人生は自分で舵をきり、操縦していきたいはずだ。

そうでなければ人生とは呼べない。

だからこそ、このデフォルトの書き換えを実践し、日常に立ち並ぶ当たり前に注目することで、人生を自分のものとし、より良い暮らしを送りたいと思おう。

そのほかにも、たくさんのノウハウがあり、チャージの章で登場する原始人「グルル」のような生き方を意識して、実に人間らしい暮らしも手に入れたいと思うが、本書から学ぶのはノウハウではなく、概念、思想、考え方といった、自分の根幹(デフォルト)を変える物語だと思う。

なので、その他のノウハウをここに書き連ねて、それっぽく書評をつらつらと続けるのはやめようと思う。

それほどに、読み応えのあり、楽しい本だった。

自分の中に溜まっている膿は、まだまだ浄化されきってはいないので、著者の二人を見習い、身も心もどんどん浄化していこうと思う。

書評と呈しながらも、まとまりの駄文を続けてしまって申し訳なく思う。

しかし、普段とは文体も変わるほどに、おもしろかったし、型に囚われずに書いてみたらどうなるか?と自分のデフォルトを変える実験もせずにはいられないほど、素晴らしい本だったのだ。

文体が変わるというのはデフォルトが変わるということ。

まさしく著者ふたりの思惑通り、わたしのOSはアップデートされて、デフォルトは書き換えられてしまった。

いやはや、なんて人たちだ。さすがとしか言いようがない。

感服だ。

追伸:文体を変える実験は大成功だ。そのほかにも実践したノウハウはたくさんあるし、書評とするなら「どんな本か」も書けただろう。しかし、そんなことを書かずとも2500を超えるほど文字を連ねることができた。偉そうな文体が自分にマッチしていることは言わずもがなである。そんな自分に、苦笑している自分が今ここにいる。