『Sleep,Sleep,Sleep』(クリスティアン・ベネディクト、ミンナ・トゥーンベリエル著、鈴木ファストアーベント理恵訳/サンマーク出版)書評

書評

「仕事で深夜までコンピュータの前で過ごすこと、明け方までパーティーを楽しむことがかっこいいとされた時代は、どうやら終焉を迎えたようだ。」と『Sleep,Sleep,Sleep』(クリスティアン・ベネディクト、ミンナ・トゥーンベリエル著、鈴木ファストアーベント理恵訳/サンマーク出版)の著者は言います。

しかし、先日なんとも不名誉な発表を目にしました。日本人の睡眠時間は先進国で最下位、労働生産性にいたっては、先進7カ国で50年連続最下位というデータです。(日本生産性本部、12月23日「労働生産性の国際比較 2020」の発表)

この労働生産性の低さは睡眠によって解決できるかもしれません。

睡眠不足は、集中力や創造性の欠如、衝動的な反応、記憶力の低下を招くからだ。加えて、実行機能(感情や思考、行動をコントロールする精神機能。認知制御とも呼ばれる)も損なわれるため、状況を把握し、適切なタイミングに適切な判断をくだすのが困難になる。

1章 眠らないとどうなる? 32ページより

中度から重度の睡眠障害をもつ人では、睡眠に問題のない人に比べ、生産性が107%以上低下することが観察されたのだ。軽度の睡眠障害を抱える人でさえ、58%のパフォーマンスの低下が認められた。

1章 眠らないとどうなる? 32ページより

つまり、毎晩しっかり眠れてさえいれば、眠れていない場合に比べて2倍以上の生産性が手に入ると考えられます。
そして最も有病率の低い睡眠時間は7〜9時間とした上で、目覚まし時計なしで数日心ゆくまで眠った時間が自身に必要な睡眠時間だと説明しています。

コロナの感染症対策にも睡眠

コロナ禍により多くの人が不安を感じているのは言うまでもないでしょう。
そして、2020年の自殺者数は昨年より大幅にアップしています。

しかし、それも睡眠によって解消できることが本書で示唆されています。

レム睡眠が少ないと、次の覚醒時に、扁桃体は前頭葉の理性のことを聞き取ることができない。感情的に絶えず緊迫した状態にあると、身体的ストレスを引き起こし、健康を損なう可能性がある。

7章 眠って「感情」を整える 145ページより

簡単に言いかえれば、睡眠時間が短ければ、不安が強まり感情的になって、冷静な判断を失い健康を損なうということです。しっかり眠ることさえ出来ていれば、前頭葉(ストレスや衝動を制御する脳の部分)が不安を抑えて、冷静な判断を下せるのだそうです。

うつ病の予防になり自殺を防ぐ睡眠。まだそれだけではありません。

本書によると人間には「免疫システム」あり、それが働くことによって細菌やウイルスから体を守っている。しかし、睡眠不足になると「免疫システム」は十分に働かなくなるといいます。

つまり、感染症にかかりやすくなるのです。

睡眠はダイエットにも効果的

睡眠不足になると、代謝が落ち、食事のサイズは大きくなり、脂肪分が多く、甘く、カロリーの高い食事を選ぶようになるそうです。

具体的には、グレリンという食欲増進ホルモンが多く分泌され
レプチンという食欲抑制ホルモンの分泌が1日中低下することが分かっているそうです。

つまり、しっかりと眠るだけで食欲を抑えることができるうえに
冒頭でも述べたように衝動性をコントロールできるようになるために
ついつい甘いお菓子を食べてしまって後悔するということも少なくなるでしょう。

睡眠こそ万能薬

本書を読んで感じることは、睡眠こそが人間の抱える悩みの多くを解決するのではないかということです。

仕事で成果を上げたい場合は、十分な睡眠を取ることで
記憶力や集中力、創造的思考力の向上により成果を出すことができますし

恋人がほしい場合は、十分な睡眠を取ることで
共感能力が高まることで意中の相手と親密度を深めることができます。

理想の体型に近づきたい場合には、十分な睡眠を取ることで
食欲は抑えられ、代謝が上がり、誘惑に強くなります。

長く健康で生きたい場合は、十分に睡眠を取ることで
癌や糖尿病、心臓疾患などの生活習慣病や認知症のリスクを大きく下げてくれます。

本書には睡眠の最新研究や睡眠改善のノウハウも多く紹介されています。
睡眠に少しでも悩みのある方は手に取ってみる価値は十分ではないでしょうか。