『世にも奇妙な人体実験の歴史』(トレヴァー・ノートン 著 赤根洋子 訳/文藝春秋)書評

書評

本書のタイトルを目にした瞬間に、どれほどの「好奇心」を持った変人たちがいたのだろうかと、ニタニタと興味がこぼれました。そうして、ページを開いていくと最初の一文には、こうありました。

【科学者とは、文字どおり好奇心の強い生き物である。】

まさしく、自分の求めていたことが書いてありそうだと思って、さっそく読み進めました。すると、その予想は的中しました。

最初の章は、解剖学の奇才「ジョン・ハンター」の物語です。もはや、実話だとは信じられないほどのことをやってのけるのが、このジョン・ハンターです。彼は「銃創治療の権威」としても知られていたり、はたまた「下肢動脈のバイパス手術」を開発したり「臓器移植の先駆者」にもなっています。

そんな彼は、自分自身を実験台にして「淋病と梅毒」の両方に罹患しています。当時は、自信を実験台にするような人は少なかったそうですが、彼の好奇心による行動力は凄まじく留まることを知らなかったのでしょう。

また彼のエピソードでおもしろいのが「墓荒らし」です。

18世紀は「解剖学」が全くと言っていいほど発展しておらず、解剖するための「遺体」も手に入らなかったのだそうです。しかし、当時のロンドンでは「死体を盗むこと」は犯罪ではなかったので、「墓荒らし」によって「遺体」を手に入れて、解剖するようになったそうです。それだけでも、おもしろいのですが続きがあります。

「死体」を盗むのは犯罪にならなくても、死体が「身につけているもの」を盗むと犯罪になる可能性があるとして、死体が身につけていた「衣服」や「装飾品」は棺のなかに残して、「死体」だけ盗む「盗掘者」もいたのだとか。

これこそ、なんとも奇妙な話ですよね。このような出来事は、当時の時代背景なくしては考えられませんからね。歴史を学ぶ「楽しさ」があります。歴史を学ぶと、あらゆる知識がつながって、おもしろいです。

最近、合わせて読んでいる『反オカルト論』では、第一次世界大戦以降の「交霊術」の成り立ちなどが知られて、そうした「病気」や「戦争」で、死者が多く出た時代の背景を知っておくと、世界情勢が大きく変わり「第三次世界大戦」が起きたとして「スピリチュアリズム」や「オカルト」に傾倒せずに済みそうです。

娯楽としても、おもしろい本書ですが、「考える力」や「好奇心」を養うのにも適していますね。